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どうけやく

道化役

豊島 与志雄

「中央公論」1934(昭和9)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,093 字 · 42 页

青空文庫

そういうことが、私の性質からすれば、またこれまでの例としても、朗かに楽しく為される筈であったが、どうしたものか、こんどは却って私を憂欝にした。殆んど諦めていたところへ、思いがけなく道が開けたようなものではあったが、私の心は少しも開けずに益々欝屈してきた。

――茲に一言挟むが、手記にはただ右のようなことしか書いてない。然し村尾はくり返し云った。「僕はその金を、拾い物を収得して利用するような気持で使った。そうすることが、信子に対する自分の道化た態度を益々徹底させることになり、自分を益々泥の中につきこむことになるからだった。そして僕は自分の……云わば、無良心の底が知りたかったのだ。」この言葉は彼の憂欝の原因を説明してくれるようである。

そして憂欝な気持で、翌日を過し、夕方家に戻ってくると、信子から手紙が来ていた。私はそれを、あれからすぐ名古屋に帰るといっていた浜田ゆき子からでも来たような気持で、披いてみたのだが……。

私は悲しい心でこの手紙を書かなければなりません。一日一夜、考え通してみましたけれど、やはり一切のことを申上げた方がよいと思いまして、進まぬペンを執りました。