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どうけやく

道化役

豊島 与志雄

「中央公論」1934(昭和9)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,093 字 · 42 页

青空文庫

だがこの話は、本物語と大した関係はないから省略するとして、ただ、村尾はこのことのために悲壮な決心をしたことは事実で、また彼の生活が甚しい窮迫に当面していたことも事実である。

それからなお、注意に価すると思われる一事をつけ加えておくが、村尾は千代次とのことに関連して、さあらぬ体で、一般に芸者たちの情交について面白いことを云ったことがある。――「そのことについては、僕の頭には、いつも不思議な連想が浮ぶ。金貸の室を思い出すのだ。金貸の室ほどさっぱりしてるものはない。座布団が一二枚、机が一つ、時とすると片隅に卓子が一つ、掛軸と額、どちらも大抵名士の書だ。そして鹿の角だとか水牛の角だとか、そんなものが一つ、ぽつりと柱にかかっている。それだけで、他に何にもない。花は固より、花瓶さえない。余分な調度は一つもない。机の上に硯箱があり、机か卓子かの抽出に印刷した紙がはいっている。極端に簡素な室だ。そしてこの簡素さは、ただ事務という一事に集中される。こういう金貸の室に、芸者たちの情交は類似しているんだ。それはただ簡素な事務に過ぎない。金貸の室に、どこに人間味が見出されるか。