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「どうひょう」をかきおえて

「道標」を書き終えて

宮本 百合子

「新日本文学」1951(昭和26)年3月号、「展望」1951(昭和26)年3月号(同時掲載)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,167 字 · 14 页

青空文庫

わたしは、別のところでも語ったように、この長篇は、自分の実力のあるがままのところから、はためには自然発生的な方法でとりかかった。しかし、その自然発生風な書きはじ{め}かたについて、作者として無意識なのではなかった。とにかく、日本の現代文学の実作の経験のうちには、まだ社会主義リアリズムの方法が、はっきりそれとして試みられたことがない。その上、わたし自身としても、日本に社会主義リアリズムの紹介された一九三三年以後明確な意識で、社会主義リアリズムの方法を追求して作品をかいたと云える経験をもっていない。

しかし、現代の世界のヒューマニティーの現実は、その芸術再現の方法を、社会主義リアリズムに発展させてゆかなければ、歴史の動きの中核と人間生活の具体的な関係を描き得ない時代に来ている。第二次世界大戦ののち――一九四五年からのちの世界とその文学は、したがって日本の文学も、文学精神の本質において飛躍しなければならない時期に来た。

わたしは、はじめっから、プラスの意企とともに、ひとめにはマイナスのあらわであろう自分の方法を、おそれずに出発した。わたしは、現代に生きる一人の階級人として、文学者として、書きのこしたい人間理性の闘いの物語を、書けるところから、書ける時に、まず書きはじめないわけにはいかなかったのだった。