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どうかんやま
道灌山
宮本 百合子
「婦人」1948(昭和23)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,015 字 · 16 页
その崖からは三河島一帯が低く遠くまで霞んで見わたせた。低いそっちは東で、反対の西側、うちのある方は、見はらしがきかなくて、お寺になっていた。
お寺の庭は土がかたく平らで、はだしで繩とびをするのに、ひどく工合がよかった。春のまだひいやりする土が、柔らかな女の子のはだしの足の裏に快く吸いついた。三人の子供は、もうおさな児から少年少女になりかかって、はげしく体を動かして遊戯するようになっていた。
道灌山の深い草は、かけまわるにも、その中へしゃがんでかくれるにも好都合で気にいっていたのに、こわいことがあって、わたしたち子供は、もう道灌山へは行かなくなってしまった。
夏のはじまりごろの或る午後だった。上の弟が目をつぶって後向きに立ち、十をかぞえて鬼になり、わたしと小さい弟とが逃げ役で、草のしげみを、だっと走り出した。三人はしまりのない山の中でもひとりでに範囲をきめて遊び、さがしたり、つかまえたりするのにこわいようなところまで陣地をひろげることはしなかった。はじめの二三歩は、小さい弟の手をひくようにして走ったが、四つ年上のわたしは、じき自分の走る面白さに夢中になって弟をのこし、道灌山と崖ぶちの柵の道とを区切っているからたちのしげみに沿って、体を内側へすこし傾かせながら大迂廻をし、ずっと道灌山の入りぐち近く逃げて来た