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えんぽうのはは
遠方の母
小川 未明
「赤い鳥 第十九卷第六號」1927(昭和2)年12月1日
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 3,382 字 · 7 页
正ちゃんは、三つになったときに、はじめて自分には、お母さんのないことを知りました。それは、どんなにさびしかったでありましょう。みんなに、お母さんがあるのに、どうして、自分にばかり、お母さんがないのか? それで、正ちゃんは、女中の脊中におぶわれながら、
「お母ちゃん、……お母ちゃん。」と、小さな掌で、女中の肩のあたりをたたきながら、呼びました。
それは、「私には、ほかの子供たちのように、やさしいお母さんがないの?」と、たずねていることがよくわかりましたので、女中は、
「坊ちゃんのお母さんは、ののさまになってしまわれましたのですよ。」といって、青い空の方を指したのであります。
しかし、ののさまということも、また、ののさまになれば、空へ上ってしまわなければならぬということも、まだ正ちゃんには、わかりませんでした。いろいろとかたことまじりに、女中に問いましたので、彼女は、
「坊ちゃんのお母さんは、遠いところへいってしまわれたのですよ。」と、哀れな子供に、説いて聞かせなければならなかったのです。
彼女には、どうしても、このとき、死んでしまったということが、あまりに、子供に対して、いじらしくていえなかったのでした。