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えんぽうのはは

遠方の母

小川 未明

「赤い鳥 第十九卷第六號」1927(昭和2)年12月1日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 3,382 字 · 7 页

青空文庫

落として、急に、悲しくなって泣き出しました。

「お母ちゃん! お母ちゃん!」

なんといっても、呼びつづけてやみませんでした。女中は、困ってしまった。しかし、自分が悪いのだと思って、

「さあ、坊ちゃん、おんぶなさい。いいきれいなうちわを買ってきましょう……。」といいました。

彼女は、探したら、これと同じ絵の描いてあるうちわを見つけないものでもない。それでなければ、もっと美しい女の人の描いてあるうちわがあるだろうと思ったからです。

正ちゃんは、すぐには、おんぶしませんでしたが、お母ちゃんの描いてある、いいうちわを買ってきましょうといったので、泣く泣く女中の肩につかまりました。

彼女は、正ちゃんをおぶって、町の中をぶらぶら歩きました。

「どこへいったら、うちわがあるだろう……。」

もはや、季節が過ぎてしまったので、荒物屋や、絵双紙屋のようなところを聞いて歩いてみたけれど、うちわを並べている家はありませんでした。

女中は、ほんとうに困ってしまいました。

「いま、きっと、どこかにありますよ。」といって、彼女は正ちゃんをおぶって、なおもうちわを探して歩いたのでした。