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えんぽうのはは

遠方の母

小川 未明

「赤い鳥 第十九卷第六號」1927(昭和2)年12月1日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 3,382 字 · 7 页

青空文庫

けれど、うちわはなかなか見つかりませんでした。たまたま売れ残りのうちわがあっても、それは、前の正ちゃんの大好きなうちわとは似つきもしないもので、正ちゃんは、それを手に取ると、だまって捨ててしまいました。

女中は、それから、まだどんなに探して歩いたことでしょう。

「お母ちゃんない、……お母ちゃんない?」と、脊中で正ちゃんはいいました。

「いくら探しても、どこにも、あれと同じうちわはありませんよ。」と、彼女は、答えました。

まだ、三つの正ちゃんにも、その意味がわかったものとみえて、正ちゃんは、女中の脊中で大あばれをしました。

「お母ちゃん、……お母ちゃん……。」といって、泣きました。

女中は、しみじみと、これほどまでに坊ちゃんが、ほんとうのお母さんのごとく思っているものを、自分が粗末にしたことは、まちがっていたと、心から悪かったと思いました。そして、どんなにしても、あれと同じようなうちわを探さなければならぬと思いました。

哀れな彼女は、町の中を歩いて、歩いてまわったのです。とうとう足は、疲れました。

そのうちに、日はまったく暮れてしまった。そして、秋の夜らしく、淡いもやが、一面に町の屋根にかかりました。