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せんきょさつじんじけん

選挙殺人事件

坂口 安吾

「小説新潮 第七巻第八号」1953(昭和28)年6月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,782 字 · 28 页

青空文庫

「バカ。秘密がないからだ」

「ナルホド」

「しかし、記事にはなるかも知れんな。花見酒の候補者。書いてみろ」

「よして下さいよ。そんなの書くために一日棒にふりやしないよ。今に見てやがれ」

「アレ。まだ諦めないのか」

「諦められないとも。こうと睨んだ稲荷カンスケの第六感、はずれたタメシは――」

「大ありだ」

「その通り!」寒吉はパチンコにもぐりこんで、半日ウサをはらした。

寒吉はコクメイにメモをしておく習慣があった。社会部記者の目は一物も見逃すべからずという戒律の然らしめるところで、ヒマあればこれを取りだして心眼を磨くのである。

「これだ! ざまア見やがれ!」

メモに「陰鬱なる目。彼ののぞかせた唯一の本音」とある。鬼の首とはまさにこれだ。この目をつかんだ以上は。

しかし、その後はパッとしたことがない。

「やっばりケンカは変なことのうちだな。パンパン街の演説だってタダモノのやれる芸当じゃねえや。してみれば、みんな変じゃないか。よーし。毎朝奥方を訪問しよう。ポチャポチャッと可愛いとこがあらア。毎朝の訪問にしちゃ気がきいてるなア、これは」

変なところにハゲミをつけて、出勤の途中に毎朝ポチャ/\夫人訪問を忘れないことにした。