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いこん

遺恨

坂口 安吾

「娯楽世界 第二巻第五号」銀五書房、1948(昭和23)年5月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,706 字 · 22 页

青空文庫

これからは、もう、先生などは黙殺して、もっぱらアキ子と交歓し、

「僕たちの芝居を見て下さい。パーティに来て下さい。アレ、ダンスできないんですか。ひらけないなア。そんな女社長ないですよ」

アキ子は鼻をピクピクさせて、よろこび、約束の日に鼻の頭に粉オシロイをペタペタたゝきつけ、タケノコで資金を作って、でかける。御帰館以後は、クイック、クイック、スローなど夢中に埃を立てまわり、

「ねえ、ちょいと、私、とても子持ちの奥さんに見えないんですってさ。二十二でしょう、なんて、アラ、はずかしい」

キャッ、と叫んで、ひとりで顔をあからめている。

そして、月日のたつうちに、アキ子は時々外泊して、度重なるようになった。

学生たちは平気なもので、アキ子のところへ遊びにくるのである。

「昨日は奥さん、誰々のところへ、泊られたんですよ」

と、あたりまえの顔でいう。

「僕は、ふられちゃったなア。僕とこへ、いらっしゃい、と言うのにアイツのとこへ行くんだもの。アイツ、僕よりハンサムじゃないけどなア」

と相好くずして、ゲタゲタ笑う。

要するにバカではあるが、決して悪人ではないらしい。アキ子は、アラ、邪推深いわね。