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いこん

遺恨

坂口 安吾

「娯楽世界 第二巻第五号」銀五書房、1948(昭和23)年5月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,706 字 · 22 页

青空文庫

然し、女の首にまきついた先生の腕の力は必死であった。先生は女の悲鳴にひきずられて、ズルズルとのびたが、まきつけた腕は放さなかった。

先生は尚も女をひきよせようと焦った。二人の力の平衡によって、力のこもった、然し妙な静止状態がしばらくつゞいた。

先生の口から、ウン、という呻きがもれた。そして、それが最後であった。次第に先生の力がゆるんだ。そして、先生は、死んでいた。

先生の腕をほぐして首をぬいた女はみんなを見廻した。怒っていた。

「なぜ、だまって、見ているのよ。私を見世物にしたわけね」

「そうじゃないよ。ホラ、見ろよ。僕たち、みんな立上っているじゃないか。どうしていゝか、わからなかったんだ。だって、見ろよ。先生はもう死んだんだぜ」

「ウソよ。あのバカ力で、にわかに死ぬものですか」

「だって、動かなくなったじゃないか」

五人は黙って先生を見つめた。先生はたしかに死んでいた。

女はビックリした様子であったが、怒りは消えていなかった。

「この人は、バカ、キチガイよ。死ぬまぎわに、あんなことをするなんて、カイビャク以来、きいたタメシがありゃしない」

みんな、しばらく重々しく、だまっていた。