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じゃしゅうもん

邪宗門

芥川 竜之介

「東京日日新聞」1918(大正7)年10~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,184 字 · 79 页

青空文庫

いや、実際竹馬は、あの日の焦けた頬に、もう一すじ蚯蚓腫の跡を加えたようでございます。が、横なぐりに打ち下した竹馬が、まだ青い笹の葉に落花を掃ったと思うが早いか、いきなり大地にどうと倒れたのは、沙門ではなくて、肝腎の鍛冶の方でございました。

これに辟易した一同は、思わず逃腰になったのでございましょう。揉烏帽子も立烏帽子も意気地なく後を見せて、どっと沙門のまわりを離れましたが、見ると鍛冶は、竹馬を持ったまま、相手の足もとにのけぞり返って、口からはまるで癲癇病みのように白い泡さえも噴いて居ります。沙門はしばらくその呼吸を窺っているようでございましたが、やがてその瞳を私どもの方へ返しますと、

「見られい。わしの云うた事に、偽りはなかったろうな。諸天童子は即座にこの横道者を、目に見えぬ剣で打たせ給うた。まだしも頭が微塵に砕けて、都大路に血をあやさなんだのが、時にとっての仕合せと云わずばなるまい。」と、さも横柄に申しました。

するとその時でございます。ひっそりと静まり返った人々の中から、急にけたたましい泣き声をあげて、さっき竹馬を持っていた童部が一人、切禿の髪を躍らせながら、倒れている鍛冶の傍へ、転がるように走り寄ったのは。