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じゃしゅうもん

邪宗門

芥川 竜之介

「東京日日新聞」1918(大正7)年10~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,184 字 · 79 页

青空文庫

すると沙門はさも満足そうに、自分も悠然と立ち上って、あの女菩薩の画像を親子のものの頭の上に、日を蔽う如くさしかざすと、

「天上皇帝の御威徳は、この大空のように広大無辺じゃ。何と信を起されたか。」と、厳かにこう申しました。

鍛冶の親子は互にしっかり抱き合いながら、まだ土の上に蹲って居りましたが、沙門の法力の恐ろしさには、魂も空にけし飛んだのでございましょう。女菩薩の幢を仰ぎますと、二人とも殊勝げな両手を合せて、わなわな震えながら、礼拝いたしました。と思うとつづいて二三人、まわりに立っている私どもの中にも、笠を脱いだり、烏帽子を直したりして、画像を拝んだものが居ったようでございます。ただ私は何となく、その沙門や女菩薩の画像が、まるで魔界の風に染んでいるような、忌わしい気が致しましたから、鍛冶が正気に還ったのを潮に、々その場を立ち去ってしまいました。

後で人の話を承わりますと、この沙門の説教致しますのが、震旦から渡って参りました、あの摩利の教と申すものだそうで、摩利信乃法師と申します男も、この国の生れやら、乃至は唐土に人となったものやら、とんと確かなことはわからないと云う事でございました。