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じゃしゅうもん

邪宗門

芥川 竜之介

「東京日日新聞」1918(大正7)年10~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,184 字 · 79 页

青空文庫

所がその後からまた一人、そっと御門を出ましたのは、私の甥の侍で、これは万一平太夫が御文に無礼でも働いてはならないと、若殿様にも申し上げず、見え隠れにあの老爺の跡をつけたのでございます。

二人の間はおよその所、半町ばかりもございましたろうか。平太夫は気も心も緩みはてたかと思うばかり、跣足を力なくひきずりながら、まだ雲切れのしない空に柿若葉ののする、築土つづきの都大路を、とぼとぼと歩いて参ります。途々通りちがう菜売りの女などが、稀有な文使いだとでも思いますのか、迂散らしくふり返って、見送るものもございましたが、あの老爺はとんとそれにも目をくれる気色はございません。

この調子ならまず何事もなかろうと、一時は私の甥も途中から引き返そうと致しましたが、よもやに引かされて、しばらくは猶も跡を慕って参りますと、丁度油小路へ出ようと云う、道祖の神の祠の前で、折からあの辻をこちらへ曲って出た、見慣れない一人の沙門が、出合いがしらに平太夫と危くつき当りそうになりました。女菩薩の幢、墨染の法衣、それから十文字の怪しい護符、一目見て私の甥は、それが例の摩利信乃法師だと申す事に、気がついたそうでございます。