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じゃしゅうもん
邪宗門
「東京日日新聞」1918(大正7)年10~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,184 字 · 79 页
」
すると若殿様はまた元のように、冴々した御笑声で、
「いや、何とも申されぬ。現に延喜の御門の御代には、五条あたりの柿の梢に、七日の間天狗が御仏の形となって、白毫光を放ったとある。また仏眼寺の仁照阿闍梨を日毎に凌じに参ったのも、姿は女と見えたが実は天狗じゃ。」
「まあ、気味の悪い事を仰有います。」
御姫様は元より、二人の女房も、一度にこう云って、襲の袖を合せましたが、若殿様は、愈御酒機嫌の御顔を御和げになって、
「三千世界は元より広大無辺じゃ。僅ばかりの人間の智慧で、ないと申される事は一つもない。たとえばその沙門に化けた天狗が、この屋形の姫君に心を懸けて、ある夜ひそかに破風の空から、爪だらけの手をさしのべようも、全くない事じゃとは誰も云えぬ。が、――」と仰有りながら、ほとんど色も御変りにならないばかり、恐ろしげに御寄りそいになった御姫様の袿の背を、やさしく御さすりになりながら、
「が、まだその摩利信乃法師とやらは、幸い、姫君の姿さえ垣間見た事もないであろう。まず、それまでは魔道の恋が、成就する気づかいはよもあるまい。さればもうそのように、怖がられずとも大丈夫じゃ。