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じゃしゅうもん
邪宗門
「東京日日新聞」1918(大正7)年10~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,184 字 · 79 页
」
「さようでございますか。それはまた年甲斐もなく、失礼な事を致したものでございます。」
平太夫はあの朝の事を思い出したのでございましょう。苦々しげにこう申しましたが、やがて勢いの好い扇の音が、再びはたはたと致しますと、
「しかしこうして今日御眼にかかれたのは、全く清水寺の観世音菩薩の御利益ででもございましょう。平太夫一生の内に、これほど嬉しい事はございません。」
「いや、予が前で神仏の名は申すまい。不肖ながら、予は天上皇帝の神勅を蒙って、わが日の本に摩利の教を布こうと致す沙門の身じゃ。」
二十二
急に眉をひそめたらしいけはいで、こう摩利信乃法師が言を挟みましたが、存外平太夫は恐れ入った気色もなく、扇と舌と同じように働かせながら、
「成程さようでございましたな。平太夫も近頃はめっきり老耄れたと見えまして、する事為す事ことごとく落度ばかりでございます。いや、そう云う次第ならもうあなた様の御前では、二度と神仏の御名は口に致しますまい。もっとも日頃はこの老爺も、余り信心気などと申すものがある方ではございません。それをただ今急に、観世音菩薩などと述べ立てましたのは、全く久しぶりで御目にかかったのが、嬉しかったからでございます。