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じゃしゅうもん

邪宗門

芥川 竜之介

「東京日日新聞」1918(大正7)年10~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,184 字 · 79 页

青空文庫

と思うとまた、その中に旗のようなものや、剣のようなものも、何千何百となく燦いて、そこからまるで大風の海のような、凄じいもの音が、河原の石さえ走らせそうに、どっと沸き返って参りました。それを後に背負いながら、やはり薄色の袿を肩にかけて、十文字の護符をかざしたまま、厳に立っているあの沙門の異様な姿は、全くどこかの大天狗が、地獄の底から魔軍を率いて、この河原のただ中へ天下ったようだとでも申しましょうか。――

私どもは余りの不思議に、思わず太刀を落すや否や、頭を抱えて右左へ、一たまりもなくひれ伏してしまいました。するとその頭の空に、摩利信乃法師の罵る声が、またいかめしく響き渡って、

「命が惜しくば、その方どもも天上皇帝に御詫申せ。さもない時は立ちどころに、護法百万の聖衆たちは、その方どもの臭骸を段々壊に致そうぞよ。」と、雷のように呼わります。その恐ろしさ、物凄さと申しましたら、今になって考えましても、身ぶるいが出ずには居られません。そこで私もとうとう我慢が出来なくなって、合掌した手をさし上げながら、眼をつぶって恐る恐る、「南無天上皇帝」と称えました。

二十八