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じゃしゅうもん
邪宗門
「東京日日新聞」1918(大正7)年10~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,184 字 · 79 页
やがてはその譜も手にはいる時節があるであろう。」と、やさしく御慰めになったそうでございます。ところがそれから半月とたたないある日の事、中御門の少納言は、堀川の御屋形の饗へ御出になった帰りに、俄に血を吐いて御歿りになってしまいました。が、それは先ず、よろしいと致しましても、その明くる日、若殿様が何気なく御居間へ御出でになると、螺鈿を鏤めた御机の上に、あの伽陵の笙と大食調入食調の譜とが、誰が持って来たともなく、ちゃんと載っていたと申すではございませんか。
その後また大殿様が若殿様を御相手に双六を御打ちになった時、
「この頃は笙も一段と上達致したであろうな。」と、念を押すように仰有ると、若殿様は静に盤面を御眺めになったまま、
「いや笙はもう一生、吹かない事に致しました。」と、冷かに御答えになりました。
「何としてまた、吹かぬ事に致したな。」
「聊かながら、少納言の菩提を弔おうと存じますから。」
こう仰有って若殿様は、じっと父上の御顔を御見つめになりました。が、大殿様はまるでその御声が聞えないように勢いよく筒を振りながら、
「今度もこの方が無地勝らしいぞ。」とさりげない容子で勝負を御続けになりました。