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へや
部屋
宮本 百合子
「文芸春秋」1926(大正15)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,792 字 · 10 页
百代が来たときは、もう大体話は出来たらしく、どっちが何と云ったのか、母親のいねが、膝をついている太った肩を揺すりあげて、
「まあ、面白いことをおっしゃるんですね」
と愉快そうに高笑いしているところであった。
「――じゃあ何です――お部屋を御覧願いましょうか」
母親が後を向き、いきなり大きな声で、
「おさをど――ん」
と呼んだので百代は、ぎょっとして首をちぢめた。さをは余り近くにいたのと不意なのとで、直ぐに返事が出ないらしかった。
「いないのかい、おさをどん」
百代は、あわててさをを小づいた。自然に、
「は――い」
という返事をしそびれたさをは、照れた、ばつの悪い風でのっそり出て行った。
「何だよ返事もしないでさ――八番、いいね」
「はあ」
百代はさをのその様子がおかしく、くすりとふき出しながら踵でくるりと一廻りした。が強い好奇心が忽ち彼女を静にさせた。春外套を片腕に軽くかけた鈴木に違いない男と湯上りのような顔をした体躯の太ったエルマンのような西洋人が並んで、彼女の隠れているすぐ頭の上の階子を登り始めた。百代は跫音が遠くなるにつれそろそろ板敷の方へ出て、後姿を見上げた。