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ごうすけほうし

郷介法師

国枝 史郎

「ポケット」1925(大正14)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,163 字 · 21 页

青空文庫

狸爺ではない」

「およそ解った、秀次だろう?」

「誰でもいい。云うことは出来ぬ」

「止めるがいい。失敗するぞよ。彼奴用心深いからな」

五右衛門は娘をチラリと見たが、

「好い娘だな。別嬪だな。月姫殿の遺児かな?」

「うん」と云うと郷介法師は始めて悲しそうな顔をした。

「この娘も本当に可哀そうだ」

「ではどうでも立ち退くつもりか?」

「うん、どうでも立ち退くよ」

「旅費はどうかな? 少し進ぜよう」

「私には五万両の貸がある」

「え、五万両? 誰に貸したのか?」

「堺の魚屋利右衛門へな」

「それではこれでお別れか」

「行雲流水、どれ行こうか」

そこで二人は別れたのである。

関白秀吉を恐れさせ一世の強盗五右衛門をして、兄事させた所の郷介法師とは、いかなる身分の大盗であろうか?

歴史にもなく伝説にもないこの不思議の大盗賊について、書き記してある書物と云えば、「緑林黒白」一冊しかない。

で作者はその書に憑據し、この大盗の生い立ちを左に一通り述べることにしよう。

4

「兄弟もなければ親もない。……俺は本当に孤児だ」

――岡郷介はこう思って来ると、いつも心が寂しくなった。

「昨日も戦争、今日も戦争、そうして明日も又戦争。