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きょうしゅう
郷愁
佐左木 俊郎
「若草」1926(大正15)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,473 字 · 3 页
故里を去る時には、その意志を貫かないうちは、石に噛りついても帰らないはずであった。
併し、私も彼も、もう……。
その月の末に、私は彼が郷里に帰ったということを聞いた。もう再び東京には出て来ないつもりだということをも聞いた。
併し、彼の意志の弱かったことを誰が嘲い得よう? 故郷を持っている人々、そして都会の無産者の生活を知っている人々は、誰も嘲うことは出来ないはずだ。
私はその後も、折々停車場へ出掛けて行った。その帰り途、私はきっと、あの時彼が歌ったあの歌を、低声で歌って見たものであった。
停車場の、地図に指あて故里と
都の距離をはかり見るかな。
この歌を私は幾度も繰り返した。繰り返しているうちに、私の歌はいつか、泣き声になっていた。そして、睫毛に涙のちかと光っているのを意識したものであった。
今では、もう停車場へ出掛けるようなことはなくなった。
けれども、夏が来て、八百屋の店頭に赤いトマトオが積みあげられ、水色のキャベツが並べられ、白い夏大根が飾られる頃になると、私は今でも、彼のあの歌を思い出すのである。
――大正十五年(一九二六年)『若草』十二月号――