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じゅうべえさんのいっか

重兵衛さんの一家

寺田 寅彦

「婦人公論 第十八年第一号」1933(昭和8)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,089 字 · 14 页

青空文庫

今の子供はコスモポリタンなお伽噺の洪水の波に押流されているようなものである。もしも今の少青年に民族的な精神が欠乏しているとすればその原因の一つとしては西洋お伽噺の食傷も数えられなければならないかもしれない。

重兵衛さんは性的な問題を取扱った話はほとんどしなかったようである。姉の家で普請をしていた時に、田舎から呼寄せられて離屋に宿泊していた大工の杢さんからも色々の話を聞かされたがこれにはずいぶん露骨な性的描写が入交じっていたが、重兵衛さんの場合には、聴衆の大部分が自分の子供であったためにそういう材料はことさらに用心して避けたものと思われる。

とにかく重兵衛さんの晩酌の肴に聞かしてくれた色々の怪談や笑話の中には、学校教育の中には全く含まれていない要素を含んでいた。そうしてこの要素を自分の柔らかい頭に植えつけてくれた重兵衛さんに、やはり相当の感謝を捧げなければならないように思う。重兵衛さんは自分の心にファンタジーの翼を授け、自分の現実世界の可能性の牢獄を爆破してくれた人であった。

重兵衛さんの次男で自分よりは一つ二つ年上の亀さんからも実に色々のことを教わった。