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じゅうきちひょうりゅうきぶん
重吉漂流紀聞
久生 十蘭
「小説公園」1952(昭和27)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,456 字 · 52 页
というと、楫取の藤介や水夫頭の庄兵衛までが同意し、てんでに数珠繩で首縊りの輪索をつくり、それをズラリと船梁に掛けつらね、
「あれは誰の輪索、これは誰の輪索」
と指差しながら語りあうのもあわれであった。
重吉は馬鹿らしいと思ったが、口に出していうわけにもいかない。いよいよこれまでと晴着に着換え、みなといっしょに輪索に首を突っこんだことが、その年の暮までに前後十六遍あったが、いざという時になるといくらか波風がしずまり、そのたびにあやうく命を拾った。
その年も押詰って大晦日になった。重吉は表ノ間へみなを呼んでいった。
「まずまず、この年も今日一日になった。春になれば南か東風が吹きだすから、故郷へ吹き戻される便宜もあるだろう。いい年のはじめになるように、目出度く〆飾をして正月を迎えよう」
水夫には、ありあうもので〆飾をつくるようにいいつけ、賄の孫三郎には、豆の粉の団子を塩水で茹であげ、形ばかりの鏡餅をつくるように手配させた。夕七ツ時、重吉が胴ノ間のランビキにとりつき、御酒代りの水をとっていると、上のほうで、大勢でなにか息巻いているような声がする。また喧嘩でもはじめたのかと甲板に上ってみると、いるだけの人数が、つくりかけの〆飾を眺めて泣いている。