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じゅうきちひょうりゅうきぶん
重吉漂流紀聞
久生 十蘭
「小説公園」1952(昭和27)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,456 字 · 52 页
こんなあてどのない大海原で、どちらの島山へも遠いため、雲霧も及ばなかったのだろう。いま雨が降りだしたのは、どこかの国に近くなった証拠にちがいないと、音吉、半兵衛の二人にも話してきかせ、水を受けられるものはありたけ甲板へ持ちだし、余すことなく天水を貯えた。
三日の朝、海がカワカワと鳴るが、海面が暗くてなにも見えない。もしや魚の群であろうかとバケを投入れてみると、一尺ばかりの鰹がついて上がってきた。そのうれしさはなににたとえようもない。バケから外して煙出しの穴から下の※ノ間へ投げおろしておき、舳のほうへ行ってバケを入れると、七本釣れた。持てるだけの鰹を両脇に抱え、さて下へ行ってみると、さっき煙出しの穴から投げおろしておいた鰹が骨ばかりになっている。どうしたことだとたずねると、音七と半兵衛は片息をつきながら、
「この魚は、神様がくだされたのか、重吉ぬしがくだされたのか知らないが、ここで跳ねまわっているのを見るなり、夢中で双方からとりつき、一と口食い二た口食いしているうちに、このように骨だけにしてしまった。せっかくおぬしが釣ったのに、ただの一と口も得食われず、さぞ腹が立つことであろうが、悪気も候も、夢現のうちにやってしまったことだから、どうかゆるしてくだされ」