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じゅうきちひょうりゅうきぶん
重吉漂流紀聞
久生 十蘭
「小説公園」1952(昭和27)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,456 字 · 52 页
砂地の渚ばかり長々とつづく人気のない浜で二度ほど船を停め、六十日あまりのあいだ東北に船を走らせた後、後に高い雪の山をひきめぐらした大きな港に入った。
このあたりはよほどの北国とみえ、陸地はどこを見ても雪ばかり。それでも足らずに、五月の末だというのに雪が降っている。昼刻にいながら太陽のすがたは見えず、黄昏のようなおぼろな色が漂い、見るからに異様な風景であった。
六十日といえば、ノヴァ・イスパニヤの港から六千里も北へ上ったわけだが、こんな賑やかなところがあろうとは思わなかった。港には二千石積、三本帆柱の大船が五艘ももやいあい、向うの岸には足場を高く組んでさかんに船作りをし、山の中腹には天主閣のついた城のようなものがあって矢狭間にはずらりと大砲の口が並んでいる。エベットの話では、ここは北の極七十度のところに跨がる、ロシア領アラスカのシトカという港だということであった。
船が港へ入ると間もなく、あちらの船こちらの船の船長が挨拶に来て酒を飲み、ベケットとエベットが折返して答礼に行くという忙しい一日を送った。
翌朝、バラノフという奉行から、至急役所まで罷出ろと重吉に差紙が届いた。