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やこ

野狐

田中 英光

「知識人」1949(昭和24)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,615 字 · 39 页

青空文庫

途中、警官の不審尋問にあったが、私がついていたので、なんでもなく済んだ。

彼女の家に帰る途中に、支那ソバ屋がある。桂子は勤めに出ていた頃、時々お腹がへるとここに寄ったという。ある時は、送ってくれた酒場のボーイを連れて。それはお客かもしれぬと一瞬、邪推したが、その時、私はまだ過去の恥ずかしいことでも、隠さず語ってくれると思う桂子を信じていた。そして桂子は玉子を入れたラーメンを二杯も食べる。昨夜のリリーに見た時のような恐るべき食欲。

帰って私たちは死んだように抱き合って寝る。朝、目がさめると、途端に私のほうからしかけてゆく抱擁。酒場に勤めていた時、まるで浮気をしなかったかどうかを私は知りたい。それで色々に白状させようとするが、彼女はそのことに関すると、穿山甲が全身の毛を逆立てたような表情になるので、私は彼女を信じるよりほかない。私はこのようにして段々、嫌いになっていったのを桂子は忘れているのだ。

それは男だけに浮気の権利があって、女にはないというのではない。一度、私が桂子を棄てた以上、その間に、彼女が売春をしたことがあっても仕方がない。ただ、そうしたお互の恥ずかしいところを全部、見せ合うところに、お互の愛情と信頼が生れると思う。