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やこ
野狐
田中 英光
「知識人」1949(昭和24)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,615 字 · 39 页
他二、三冊の洋書を、訪ねてきた編集者に頼み、一面識だけある本屋の社長に図々しくも売ってきて貰う。しかもその後で、私は彼女に万という貯金のあるのも分った。
昔、彼女と同棲していた頃、私は彼女からやかましく飲み代を制限されるのに困り、また妻子のもとに送る金のことでも煩く言われるのに閉口し、金を方々にかくしたことがある。いまは、その復讐をされているのだと思えば、バカな私は少なくとも、このことに関して桂子を責める気になれない。
しかし、彼女がその一月の間に三夜ほど外泊し、その度に、分厚い札たばを持ってきて、貯金したという話をきいて、私は愕然とした。彼女は悪い病気を持っていて、それが私のとび出したあと、殆ど治療していないといっている。それならば、桂子はそうして自分で自分の身を亡ぼしているようなものではないか。私はあれを思い、これを思い、殆ど居たたまれぬ思いで、もう一度、桂子の家を出て、姉のもとにいった。
そこには妻の勝ち誇ったような顔がある。妻は、私が桂子の家にいっている時、四人の子供を連れ、私たちの留守に、桂子の家を襲った。そして留守番のオバサンから、彼女が三度、外泊した話と、分厚い札たばを持返った話をきき、胸がスッとしたというのだ。