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ななこ

野菊の墓

伊藤 左千夫

伊藤左千夫『野菊の墓』。同一底本的分册已合并为一书。收入:奈々子、隣の嫁、春の潮。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 71,271 字 · 144 页

青空文庫

おとよは金めっきの足に紅玉の玉をつけた釵をさし替え、帯締め直して手早く身繕いをする。ここへ二十七、八の太った女中が、茶具を持って上がってきた。茶代の礼をいうて叮嚀にお辞儀をする。

「出花を入れ替えてまいりました、さあどうぞ……」

「あ、今おりて湖水のまわりを廻ってくる」

「お二人でいらっしゃいますの……そりゃまあ」

女中は茶を注ぎながら、横目を働かして、おとよの容姿をみる。おとよは女中には目もくれず、甲斐絹裏の、しゃらしゃらする羽織をとって省作に着せる。省作が下手に羽織の紐を結べば、おとよは物も言わないで、その紐を結び直してやる。おとよは身のこなし、しとやかで品位がある。女中は感に堪えてか、お愛想か、

「お羨ましいことねい」

「アハヽヽヽヽ今日はそれでも、羨ましいなどといわれる身になったかな」

おとよは改めて自分から茶を省作に進め、自分も一つを啜って二人はすぐに湖畔へおりた。

「どっちからいこうか」

「どっちからでもおんなしでしょうが、日に向いては省さんいけないでしょう」

「そうそう、それじゃ西手からにしよう」

箱のようなきわめて小さな舟を岸から四、五間乗り出して、釣りを垂れていた三人の人がいつのまにかいなくなっていた。