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ななこ

野菊の墓

伊藤 左千夫

伊藤左千夫『野菊の墓』。同一底本的分册已合并为一书。收入:奈々子、隣の嫁、春の潮。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 71,271 字 · 144 页

青空文庫

省作は今年十九だ。年の割合には気は若いけれど、からだはもう人並み以上である。弱音を吹いて見たところで、いたずらに嘲笑を買うまでで、だれあって一人同情をよせるものもない。だれだってそうだといわれて見るとこれきりの話だ。

省作も今は、なあにという気になった。今日の稲刈りで、よし田ん中へ這ったって、苦しいのなんのというもんかと力んで見る。省作はしばらく井戸ばたにたたずんで気を養うている。井戸から東へ二間ほどの外は竹藪で、形ばかりの四つ目垣がめぐらしてある。藪には今藪鶯がささやかな声に鳴いてる。垣根のもとには竜の髭が透き間なく茂って、青い玉のなんともいえぬ美しい実が黒い茂り葉の間につづられてある。竜の髭の実は実に色が麗しい。たとえて言いようもない。あざやかに潤いがあるとでも言ったらよいか。藪から乗り出した冬青の木には赤い実が沢山なってる。渋味のある朱色でいや味のない古雅な色がなつかしい。省作は玉から連想して、おとよさんの事を思い出し、穏やかな顔に、にこりと笑みを動かした。

「あるある、一人ある。おとよさんが一人ある」

省作はこうひとり言にいって、竜の髭の玉を三つ四つ手に採った。