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ななこ

野菊の墓

伊藤 左千夫

伊藤左千夫『野菊の墓』。同一底本的分册已合并为一书。收入:奈々子、隣の嫁、春の潮。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 71,271 字 · 144 页

青空文庫

こうは覚悟していますものの、いよいよ二人一緒になるまでには、どんな艱難を見ることか判りませぬ。何とぞわたしの胸の中を察してくださいませ。常にも似ず愚痴ばかり申し上げ失礼いたし候。こんな事申し上ぐるにも心は慰み申し候。それでも省さまという人のあるわたし、決して不仕合せとは思いませぬ」

種まきの仕度で世間は忙しい。枝垂柳もほんのり青みが見えるようになった。彼岸桜の咲くとか咲かぬという事が話の問題になる頃は、都でも田舎でも、人の心の最も浮き立つ季節である。

某の家では親が婿を追い出したら、娘は婿について家を出てしまった、人が仲裁して親はかえすというに今度は婿の方で帰らぬというとか、某の娘は他国から稼ぎに来てる男と馴れ合って逃げ出す所を村界で兄に抑えられたとか、小さな村に話の種が二つもできたので、もとより浮気ならぬ省作おとよの恋話も、新しい話に入りかわってしまった。

六

珊瑚樹垣の根には蕗の薹が無邪気に伸びて花を咲きかけている。外の小川にはところどころ隈取りを作って芹生が水の流れを狭めている。燕の夫婦が一つがい何か頻りと語らいつつ苗代の上を飛び廻っている。