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のぎくのはか
野菊の墓
伊藤 左千夫
「ホトトギス」1906(明治39)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,539 字 · 67 页
と『えびづる』を持って行って下さい」
「『アックリ』てなにい。あらア春蘭じゃありませんか」
「民さんは町場もんですから、春蘭などと品のよいこと仰しゃるのです。矢切の百姓なんぞは『アックリ』と申しましてね、皸の薬に致します。ハハハハ」
「あらア口の悪いこと。政夫さんは、きょうはほんとに口が悪くなったよ」
山の弁当と云えば、土地の者は一般に楽しみの一つとしてある。何か生理上の理由でもあるか知らんが、とにかく、山の仕事をしてやがてたべる弁当が不思議とうまいことは誰も云う所だ。今吾々二人は新らしき清水を汲み来り母の心を籠めた弁当を分けつつたべるのである。興味の尋常でないは言うも愚な次第だ。僕は『あけび』を好み民子は野葡萄をたべつつしばらく話をする。
民子は笑いながら、
「政夫さんは皸の薬に『アックリ』とやらを採ってきて学校へお持ちになるの。学校で皸がきれたらおかしいでしょうね……」
僕は真面目に、
「なアにこれはお増にやるのさ。お増はもうとうに皸を切らしているでしょう。この間も湯に這入る時にお増が火を焚きにきて非常に皸を痛がっているから、その内に僕が山へ行ったら『アックリ』