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のぎくのはか
野菊の墓
伊藤 左千夫
「ホトトギス」1906(明治39)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,539 字 · 67 页
柿の木の下から背戸へ抜け槇屏の裏門を出ると松林である。桃畑梨畑の間をゆくと僅の田がある。その先の松林の片隅に雑木の森があって数多の墓が見える。戸村家の墓地は冬青四五本を中心として六坪許りを区別けしてある。そのほどよい所の新墓が民子が永久の住家であった。葬りをしてから雨にも逢わないので、ほんの新らしいままで、力紙なども今結んだ様である。お祖母さんが先に出でて、
「さア政夫さん、何もかもあなたの手でやって下さい。民子のためには真に千僧の供養にまさるあなたの香花、どうぞ政夫さん、よオくお参りをして下さい……今日は民子も定めて草葉の蔭で嬉しかろう……なあ此人にせめて一度でも、目をねむらない民子に……まアせめて一度でも逢わせてやりたかった……」
三人は眼をこすっている様子。僕は香を上げ花を上げ水を注いでから、前に蹲って心のゆくまで拝んだ。真に情ない訣だ。寿命で死ぬは致方ないにしても、長く煩って居る間に、あア見舞ってやりたかった、一目逢いたかった。僕も民さんに逢いたかったもの、民さんだって僕に逢いたかったに違いない。無理無理に強いられたとは云え、嫁に往っては僕に合わせる顔がないと思ったに違いない。