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きんぞくにんげん
金属人間
海野 十三
「サイエンス」1947(昭和22)年12月~1949(昭和24)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,616 字 · 157 页
検事の鼻さきに、ぷーんと強い洋酒のにおいがした。こはく色の液体のはいったコップがかれの目の前につきつけられている。血色のいい手がそのコップをにぎっている。誰だろうかと検事がその声の主をあおいでみるとそれは針目博士だった。そしてそのまわりに、検事の部下たちの頭がいくつもかさなりあっていた。長戸検事は、びっしょりと冷汗をかいた。
「いや、もう大丈夫です」
「やせがまんをいわずと、これをお飲みなさい」
「いや、ほんとにもう大丈夫だ」
検事は、強く洋酒のコップをしりぞけて、長いすからきまりわるく立ちあがった。
「だからぼくは、あらかじめご注意をしておいたのです。こんな見なれない動物をごらんになって、気持が悪くなったのでしょう」
「いや、そうじゃない。じつは昨夜からかぜをひいて気持がわるかったのだ。この部屋へはいったとき、異様なにおいがして、頭がふらふらとしたのだ。心配はいらんです」
検事は強く弁明をした。かれは強引にうそをついた。このうそを、ほんとうだと自分自身に信ぜしめたいと願った。けっして、この奇妙な標本を見て気持がわるくなったのではないと思いたかった。そうでないと、これから先、この奇妙な標本と取っ組んで、事件の真相をしらべあげることはできなかろう。