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きんざんそうわ

金山揷話

大鹿 卓

「中央公論」1939(昭和14)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,736 字 · 22 页

青空文庫

そういって、男の前へ立ちはだかった。男は細君の肩越しに肘をのばして、逃げる市岡のうしろへ引金を引いた。それが市岡のうしろ頸へ命中した。細君が声をあげて近所の人を呼び、すぐ病院へ担ぎ込んだが、医者はどの弾傷ひとつでも絶命的なものだと宣言したという。

「おれはその通知をうけてね。自分は出ぬけられない場合だったし、仕方がないから、この佐々木のところへ頼むって北見から電報を打ったんだ。市岡はへいぜいがへいぜいで皆から敬遠されていたから、誰も友達が寄りついてくれないのではないかと、それが心配だったんでね。ところが佐々木や茂木でそれはよくやってくれたよ」

森山は言葉を切って、自ら感動をあらたにするような硬張った顔をし、

「佐々木なんか、輸血までしたんだからね」

「そうかい、輸血したのかい?」

と、私は土田とともに佐々木へ目をそそいだ。

「いや、そんな事はなんでもなかった。この体だもの、それ位の血を取ったところで平気さ。おれはそんな事ででも役に立たなきゃ、ほかに能がない男だから……」

佐々木は、そういって部厚な膝をゆすった。彼の童顔はただ好人物らしくふくよかな、自嘲や卑屈な影などは窺えなかった。