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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき
釘抜藤吉捕物覚書
林 不忘
13 宙に浮く屍骸
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,907 字 · 32 页
風に吹かれている。大きく揺れている。小刻みにふるえている。庇越しに、階上から細引で垂れ下がっているのだ。
「あおっ!」
と、出そうとしても出ない声を出して、初太郎は風に突き飛ばされるように一瞬に部屋に転げ込んでいた。無意識だった。あたまから蒲団を被って、もう一度叫ぼうとした。声を成さなかった。初太郎の聞いたものは、自分の歯の細かくかち合う音だった。そしてそれは、まるで鍛冶屋の乱打ちのように、耳いっぱいに響いた。
悪夢?――しかし夢ではない。初太郎はこわごわ床のうえに起き上って見ると、紛れもない女の首吊が、雨戸のすぐ外に宙乗りして、一段黒く遮ぎっているのだ。風を受けて、前後左右にしずかに揺れている。そればかりか、凝視めているうちに首吊は、すう、すうと上から誰かが引き上げるように、五寸ぐらいずつ競りあがって往くではないか――。
初太郎は、眼をこすった。見直すまでもなく、女だ。女の首吊だ。この鍋屋のお美野だ。
「うわあっ!」と、両手を頭のうえに振り廻して、初太郎は、弾ね仕掛けのように躍り上っていた。
「お女将さんだあ――!」
ここは大鍋の別棟で、母家とは庭つづき、客が立て混まないかぎり、普段は家うちの者が寝泊りをするところとなっているのだが、その晩は混んでもいたし、それに、小金井の初太郎は以前からの定客なので、なか