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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

06 巷説蒲鉾供養

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,319 字 · 29 页

青空文庫

藤倉草履に砂埃が立って、後から小さな旋風が、馬の糞を捲き上げては消え、消えては捲き上げていた。

文久辛の酉年は八月の朔日、焼きつくような九つ半の陽射しに日本橋もこの界隈はさながら禁裡のように静かだった。白っぽい街路の上に瓦の照返しが蒸れて、行人の影もまばらに、角のところ天屋の幟が夕待顔にだらりと下っているばかり――。

当時鳴らした八丁堀合点長屋の御用聞釘抜藤吉の乾児葬式彦兵衛は、ただこうやって日永一日屑物を買ったり拾ったりしてお江戸の街をほっつき廻るのが癖だった。どたんばたんの捕物には白無垢鉄火の勘弁勘次がなくてならないように、小さなたねを揚げたり網の糸口を手繰って来たりする点で、彦兵衛はじつに一流の才を見せていた。もちろんそれには千里利きと言われた彦の嗅覚が与って力あることはいうまでもないと同時に、明けても暮れても八百八町を足に任せてうろつくところから自然と彦兵衛が有っている東西南北町名生番付といったような知識と、屑と一緒に挾んでくる端の聞込みとが、地道な探索の筋合でまたなく彦を重宝にしていた事実も否定できない。それはいいとして、困ることは、ときどき病気の猫の子などを大事そうに抱えてくるのと、早急の用にどこにいるかわからないことだったが、よくしたもので、不思議にもそんな場合彦兵衛はぶらりと海老床の路地