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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき
釘抜藤吉捕物覚書
林 不忘
06 巷説蒲鉾供養
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,319 字 · 29 页
悪戯らしい白犬を追って近所の人達が駈けてくる。犬は何か肉片のような物を銜えて、一目散に走り過ぎようとした。生魚の盤台から切身でも盗んだか――彦兵衛はむしろ微笑もうとした。それにしても、続く人々の真剣さがいっそう彼にはおかしかった。
「屑屋っ! 捕めえろっ!」
ただごとではあるまい、と彦兵衛、思ったので、持っていた長箸を抛った。それが宙を切って犬の足に絡んだ。一声高く鳴いて犬は横町へ逃げ込んだ。後には一片の肉が転がっている。
拾い上げた彦兵衛、見るみる顔色が変った。きっとなった。そして振り向いて折柄走り寄った追手の顔を見廻した。
「お前さん方、何しにあの犬を追って来なすった?」
「てこ変な物を銜えてやがったからよ。」
一人が答えた。そのてこ変な物を、彦兵衛は突然自分の丼へ押し込んで、さっさと歩き出そうとした。他の一人が立ち塞った。
「やいやい、屑屋、拾った物を出せ。犬の野郎が置いてった物を、手前、出せよ。」
が、彦兵衛は黙って突退けた。二、三人が追い縋る、「伺えやしょう。」と彦兵衛は開き直って、「犬が何を銜えて来たか、皆の衆、定めし御存じでごわしょうの?」