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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

05 お茶漬音頭

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,874 字 · 20 页

青空文庫

この久兵衛とお艶とどういう関係にあるのか、などと改めて四角張るのは野暮の骨頂で、片方が気違いのことだ、順序も系統もあったものではない。ただ、近江屋攻めに油の乗り出した二月ほど前に、近江屋の門口に現れた時と同じようにお艶のほうからぶらりと因業御殿へ舞い込んだというだけのこと。

有名な美人の狂女がこう思いがけなく飛びこんで来たばかりかあなたの口から近江屋へ全資産引渡しの件を交渉ってくれと泣いて頼んで動かないのだから、因業久兵衛、食指むらむらと動いて悦に入ってしまった。二つ返事で承知ってお茶漬を出すとじつによく食べた。その後で手を出すと、どっこいこの方はそう容易くは参らなかった。が、逃げられるほど追いたくなるのがこの道の人情とやら、ことにはなにしろきの字のこと、まあ急いては事を仕損じる。気永に待って取締めようと、それからというもの、久兵衛は毎晩お艶を引き入れてお茶漬を食わせて口説いてみるが、お艶は近江屋のことを頼む一方、狂気ながらも途端場へ来るとうまくさらりとかい潜るのが例だった。

「いけねえ。久てきまだお預けを食ってやがらあ。」

神田代地の忍びから帰って来ると、彦兵衛はこう言って舌を出した。