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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

05 お茶漬音頭

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,874 字 · 20 页

青空文庫

」

「あんたは大番頭の元七さん――。」

戸外の男の息は喘ぐ。

「へえ、さようでして、あなた様は?」

「いや、今日はわざわざお越し下されて恐れ入りましたわい。で、早速ながら彼の一件物のこってすがの、今晩先方へこれこれこうと話をつけましたが、あんたの前だが儂もえらく骨を折らされましたて。が、まあ、とどの詰り、お申入れの一札を書かせましてな、はい、これこのとおりお約言の子に持って参じましたから――ま、ちょっとこの戸をお開けなすって。」

「何でございますか手前共にはいっこうお話がわかりませんですが――。」

「え?」

「何の事やら皆目、へい。」

「げ、元七どん、しらばくれちゃいけませんよ。老人は真にする。冗談は抜きだ。」

「ええ念のため申し上げます。当家は生薬の近江屋でござい――。」

「ささ、その近江屋さんから今日の午下りに大番頭の元七さんが見えて――。」

「元七と言えば手前でございますが、お店に唐から着荷があって、今日は手前、朝から一歩も屋外へは踏み出しませんが。」

「えっ、それでは、あの――。」

「何かのお考え違いではございませんか。」

「あっ!」

と叫んで、男が地団太踏んだその刹那、程近い闇黒の奥から太い声がした。