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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

05 お茶漬音頭

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,874 字 · 20 页

青空文庫

はあ、妾の爺様の代に此店の先代という人にうまうま一杯欺められて――ああ口惜しい、口惜しいっ! お返し! お寄越し! 盗人! 詐偽師っ! お返しったらお返し! お店からお顧客までそのままつけて返すがいいのさ。あれ、よしこのなんだえ、お茶漬さらさら、ほほほほほ。」

後は朗かな唄声に変って、うらみ数え日、とまたも始める――。

こうなると抛擲ってはおかれない。まず最初に騒ぎ出したのが、お艶の話に出て来る当の先代なる近江屋の隠居であった。さんざん考えあぐんだ末生易しい兵法ではいけないと見て、お艶の影を認め次第飛礫の雨を降らせるようにと番頭小僧へ厳命を下しておいたが、その結果は、小石の集まる真ん中でお艶をして唯一得意の「お茶漬さらさら」をやらせるに止まり、顕の見えないことおびただしかった。

近江屋にしたところで商売仇もあれば憎み手もある。この、根も葉もない狂女の言い草にさえ、火のないところに煙は立たぬとかなんとか取り立てて、早くもけちをつけにかからんず模様、さらぬだに口性ない江戸の雀、近江屋はやっきになり出したが、それにもましてお艶は腕、いや、口に縒りをかけてあらぬ鬱憤を洩らし始めるという、茲元片や近江屋片やお艶のまたとない取組となったある日のこと――。