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てつのきりつ
鉄の規律
平林 初之輔
「新青年 第一二巻第一〇号」1931(昭和6)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,016 字 · 30 页
車体は徐々に動きだした。
九十六号の自動車はその時ちょうど桜田門停留場まで来た。すると貨物自動車は、急に全速力を出して疾走しはじめ、九十六号が日比谷の方向へカーブしようとして、車体が斜めになった時、弾丸のように九十六号の車体に衝突してしまった。
交通巡査はどうするひまもなかった。彼は貨物自動車が疾走しはじめると、「危ないっ」と叫んで駆けだしたが、もう疾走している車をとめることはできなかった。双方の運転手は衝突の直前にブレーキをかけて車をとめようとしたが、もう間にあわなかった。九十六号は横ざまに転覆した。貨物自動車の運転手は街上へはね飛ばされた。
交通巡査は急いでかけつけて九十六号の箱の中をのぞきこんだ。それから彼はあわてて呼笛をとりだして力いっぱいふき鳴らした。
そのうちに、通行の人々や、電車の乗り替えの人や、わざわざ電車を降りた人のために、周囲には黒山のような人垣ができた。日比谷の方面から、佩剣をがちゃがちゃいわせながら警官隊がかけつけた時は、群集を追っ払うのに三人の警官がしばらくかかりっきりにならねばならない程だった。
ちょうどこの騒ぎの最中に、東亜局の門を出た二千十八号の自動車は、群集の間をぬけて、東京駅の方へ走っていった。