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かなづち

鉄鎚

夢野 久作

「新青年」1929(昭和4)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,659 字 · 62 页

青空文庫

私はそこで給仕同様にコキ使われながら夜学校に通わされる一方に、毎日毎日相場の事ばかり見せられたり聞かされたりした。そのうちにいつからともなく相場の種類や、上り下りの理窟や、馳け引きのうらおもてなどが解って来るに連れて、世の中に相場ぐらい詰らない面白くないものはない、とシミジミに思うようになった。けれども亦、そんなものに引きずられて、血眼になっている人間を見るのは非常に面白かった。前にも書いた通り叔父は大変な嘘吐きで、よくお客に中華民国の暦と米相場の高低表を並べて見せて、この日は仏滅だからこの株が下った。この時は日柄が三リンボーだったけれども虎の日の友引きだったから、この株とこの株が後場になって盛り返したのだ。元来この「友引き」とか「先負け」とかいう日取りの組合わせは聖徳太子の御研究で、人気の移りかわって行く順序をあらわしたものです……この相場の高低表と見比べて御覧なさい。一目瞭然でしょう……現に私はこの時にいくら儲けて……なぞと真面目腐って講釈をしていた。しかもその暦をよく見ると、いい運勢とわるい運勢とが同じ日に幾つも重なり合っていて、相場が上っても下っても理窟がつくようになっているのであったが、それを真剣になって聞いている素人のお客を見ると、トテモ滑稽で気の毒でしようがなかった。