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かなづち
鉄鎚
夢野 久作
「新青年」1929(昭和4)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,659 字 · 62 页
それを私は、電話の横にかかったボールドにチョークで書き直すのであったが、それを見ながら叔父は腹の中でいろんな奸策を立て直しつつ、お客の株を売ったり買ったりして、悪銭をカスッている事が私によくわかった。あんなに苦心して危険な銭を掴んで、火の車に油を指し指しして行くのがこの叔父の一生かと思うと、いつも薄笑いが腹の底から浮かみ上って来た。いっその事、死んだ親父の遺言通りに、この叔父の禿げた脳天をタタキ破ってやった方が功徳になりはしまいか……なぞと考えた事もあった。
けれども店を仕舞うと同時に、私はそんな事をキレイに忘れて終うのが常であった。そうして鼻歌を唄い唄い二階に上って、煙草の烟と、小説と雑誌と、キネマの筋書の世界に寝ころんだ。活動も時々見た。
私は十円に満足していた。
ところが、こうした私の電話に対する特別の能力が、とうとう外に顕われる時機が来た。
それは私が十七の年であったと思うから大正十年頃の事である。青木の店員が一気に読み上げる前場の数字の中で、製糖関係の株が一斉に二分乃至五分方の暴落をしているのにビックリしながら鉛筆を走らせていると、どこから混線して来たものか、以前に声の調子を聞き覚えていた叔父の知人で、大阪随一の相場新聞浪華朝報社の主筆をやっている猪股という男の言葉が切れ切れに響いて来た。