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かなづち
鉄鎚
夢野 久作
「新青年」1929(昭和4)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,659 字 · 62 页
……と……。
「彼奴は悪魔だ。お前と俺の生涯をドン底まで詛って来た奴だ。今度彼奴に会ったら、鉄鎚で脳天を喰らわしてやるんだぞ。いいか。忘れるなよ」
親父は私にこう云って聞かせるたんびに、煎餅蒲団の上で起き直った。蓬々と乱れた髪毛と髯の中から、血走った両眼をギョロギョロと剥き出して、洗濯板みたいに並んだ肋骨を撫でまわしてゼイゼイゼイゼイと咳をした。そのうちに昂奮して神経が釣り上って来ると、その悪魔が眼の前に坐っているかのように、鼻の先の薄暗い空間を睨み付けてギリギリと歯ぎしりをしながら、骨と皮ばかりの手を振り上げて鉄鎚をグワンと打ちおろす真似をして見せる事もあったが、その顔の方がよっぽど恐ろしくて、活動に出て来る悪魔ソックリに見えたので、私はいつも子供心に一種の滑稽味を感じさせられた。親父は悪魔を取り違えているのじゃないか知らんと思って……。
親父が悪魔と云っているのは、親父の実の弟で、私にとってはタッタ一人の叔父に当る、児島良平という男であった。何でもその叔父というのは、よっぽどタチの悪い人間で、若いうちから放蕩に身を持ち崩したあげく、インチキ賭博の名人になって、親類や友達から見離されていたが、私が三つか四つの年に親父が喘息にかかって弱り込むと間もなく、上手に詫を入れて出入りをするようになった。