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かなづち

鉄鎚

夢野 久作

「新青年」1929(昭和4)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,659 字 · 62 页

青空文庫

「公園の中の自動電話よ」

「フーン。何の用?……」

「……あのね……昨夜妾が帰ったらね……叔父さんが帰っていたの……」

「フーン。それで……」

「……あのね……そうしたらね……今朝から様子が変になったの」

「……どうして……」

「……あのね……妾……アノお薬を服ませるのを四五日前から止していたの……大阪へも何も入れないカクテールを持たして上げたの……そうして昨夜も同じのを、あたためて上げたのよ」

「……フーン……だから温泉で僕に打ち明けたんだね」

「……エエ……まあそうよ……そうしたら昨夜、夜中から胸が苦しいと云い出してネ、今朝、お隣りの山際っていうお医者さんに診せたら心臓の工合がわるいって云うの。そうして先刻まで何本も注射をしたけどチットも利かないで、物も云わずに藻掻きはじめたの……何を云ってもわからないのよ……もう駄目なんですってさあ」

「ちょうどよかった」

「ええ……だからあなた早く来て頂戴な。そうして何とか芝居をして頂戴な……あたし何だか怖くなったから……」

「……バカ……何が怖い……そんな事は覚悟の前じゃないか……初めっから……」

「だって医者が見ている前で口と鼻からダラダラ出血し初めたんですもの……あのお薬は妾が聞いたのと何だか違っているようよ。