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ぎんさんじゅうまい

銀三十枚

国枝 史郎

「新青年」1926(大正15)年3月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,863 字 · 73 页

青空文庫

依然として下宿で暮らすことにした。

その翌日のことであった。

何気なく私は夕刊を見た。

「佐伯準一郎惨殺さる。自動車の中にて。……原因不明」

こういう記事が書いてあった。

「少し事件は悪化したな」

さすがに私は竦然とした。

「彼女の仕業ではあるまいか?」

ふと私はこう思った。

「昨日の佐伯氏のあの言葉は、どうも私には疑わしい。あれだけ高価の白金を、ああ早速にくれるはずがない。一度はくれると云ったものの、考え直して惜しくなり、取り返しに行ったのではあるまいか?」

私は理詰めに考えて見た。

「銀三十枚を取り返すため、佐伯氏が彼女を訪問する。彼女はそれを返すまいとする。必然的に衝突が起こる。それが嵩ずれば兇行となる。彼女の性質なら遣りかねない」

翌日の新聞が心待たれた。

だが翌日の新聞には、下手人のことは書いてなかった。

「では彼女ではないのかしら?」

私は幾分ホッとした。

「彼女に平和があるように」

それでも私は気になった。二三日新聞を注意して読んだ。原因も下手人も不明らしかった。それについては書いてなかった。間もなく新聞から記事が消えた。

「これを流行語で云う時は、事件は迷宮に入りにけりさ。