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ぎんさんじゅうまい
銀三十枚
国枝 史郎
「新青年」1926(大正15)年3月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,863 字 · 73 页
イスカリオテのユダを残し、後を郵送してよこしたことは、我等をして首肯せしめ微笑せしめた。安心せよ。危害を加えず」
「ついに彼女は郵送したと見える。イスカリオテのユダの付いた、一枚の貨幣を送らなかったのは、以前売ったからに相違ない」
とにかく私はホッとした。
「だが彼女は貧乏になった。もうあの家には住めないかもしれない」
ある日私はこっそりと、彼女の家の方へ行って見た。家には貸家札が張ってあった。
「予想通りだ」と私は云った。
「流浪の旅へでも出たのだろう」
私は安心と寂しさを感じた。彼女とは永遠に逢えないだろう。こう思われたからであった。
間もなく春が訪れて来た。
やがて晩春初夏となった。
彼女に目つかる心配はなかった。自由に散歩をすることが出来た。事の過ぎ去った後において、その事のあった遺跡を尋ね、思い出に耽るということは、作家には好もしいことであった。で私は公園へ行き、首を釣りかけた木へ触れたり、佐伯氏と逢ったロハ台に、腰を掛けて考えたりした。
菖蒲の花の咲く季節、苺が八百屋へ出る季節、この季節を私は愛する。
だんだん私は健康になった。
ある日久しぶりでK博士を訊ねた。