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さっかくすうだい
錯覚数題
寺田 寅彦
「中央公論」1933(昭和8)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,152 字 · 18 页
そういう特別な場合の記憶だけが残存蓄積するせいもあろう。捜してすぐにあった場合は忘れるからである。
しかし、また、実際、特別緊急な捜しものをする場合には、心にこだわりがあって、自由な観察と認識の能力がいくぶん減退しているためもたしかにいくぶんかはあるらしい。
これとはまた少し趣のちがった「捜すものは無い」場合がある。
大きな書店の陳列棚をひやかしていると、実にたくさんの本がある。俳句の本、山登りの本、唯物論的弁証法の本、ゴルフの本、なんでも無いものはないように見える。ところが、何かしらある些細な題目についてやや確実詳細な具体的知識を得たいと思って参考書を捜すとなってみると、さて、なかなか容易に自分の要求に適応する本は見つからないものである。
たとえば、ばらの葉につくチューレンジ蜂の幼虫を駆除するに最も簡易で有効な方法を知りたいと思って、いろいろな本を物色してみたが、なるほど、多くの本にはこれに関する簡単な記載はあるが、書き方がたいていきわめて概念的で、本を読んだだけで、具体的に正確に直ちに実行に移しうるものはほとんど見つからなかった。たとえば亜砒酸鉛を使用すればいいが、劇毒であるから注意を要するとあるが、その注意のしかたは一言も書いてないから、この記事を読んだだけではちょっと物知りになるだけで実行でき