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かぎ

鍵

谷崎 潤一郎

「中央公論」中央公論社、1956(昭和31)年1月、5月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,182 字 · 200 页

青空文庫

不安であると云っているが、その不安をことさら隠すところなく日記に書き記すということは、ひょっとすると、私にそれを盗み読んで貰い、そうして彼を嫉妬せしめるような行動を示して貰うことを、期待しているのではあるまいかという風に、私は取った。この推測が当っていたことは、「僕ハソノ嫉妬ヲ密カニ享楽シツツアッタ」、―――「僕ハ嫉妬ヲ感ジルトアノ方ノ衝動ガ起ル」、―――「ダカラ嫉妬ハ或ル意味ニオイテ必要デモアリ快感デモアル」(一月十三日)―――等々とあるので明らかであるが、もうそのことは一月一日の日記の中でうすうす私には想像できたのであった。………

六月十日。………八日に私はこう書いている。―――「私は夫を半分は激しく嫌い、半分は激しく愛している。私は夫とほんとうは性が合わない………」と。そうしてまたこうも書いている。―――「だからといって他の人を愛する気にはなれない。私には古い貞操観念がこびり着いているので、それに背くことは生れつきできない」、―――「私は夫のあの………愛撫の仕方にはホトホト当惑するけれども、そういっても彼が熱狂的に私を愛していてくれることは明らかなので、それに対して何とか私も報いるところがなければ済まない」