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かぎ

鍵

谷崎 潤一郎

「中央公論」中央公論社、1956(昭和31)年1月、5月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,182 字 · 200 页

青空文庫

のみならず僕のこの気持が奥さんに反映し、奥さんも僕と同様に苦しむことを知って、そこにも愉悦を感じつつあるのです。僕は奥さんや僕をこんなにまで苦しめる先生を、憎いとは思いますけれども、それでも先生を裏切る気にはなりません。僕は奥さんの苦しむのを見て、自分も奥さんとともに苦しみ、もっともっとこの苦しみを深めて行きたいのです。―――私は木村さんに云った、―――敏子はあなたから借りたフランス語の本の中に、あの写真が挟まっていたのを見つけて、これは偶然にここに挟んであったものとは思えない、何か意味があるのだろうと云っていました、あれはどういうつもりでしたか。―――木村さんが云った、―――あれをお嬢さんに見せたら、お嬢さんが何かしら積極的に動いてくれるであろうことを豫期したのです。僕はこれといって、何もお嬢さんに示唆したことはありません。僕はお嬢さんのイヤゴー的な性格を知っているので、ああすれば十八日の晩のようなことになるのを期待していただけです。二十三日の晩のことも、今夜のことも、いつもお嬢さんがイニシアチブを取り、僕は黙ってそれに喰っ着いて行ったまでです。