轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

かがみのなかのつき

鏡の中の月

宮本 百合子

「若草」1937(昭和12)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,290 字 · 15 页

青空文庫

二十畳あまりの教室に、並べられた裁縫板に向って女生徒たちが一心に針を運んでいた。

あけ放された窓々から真夏の蝉の声が精力的に溺らすように流れ入った。校庭をとりまく大きい樫の樹の梢は二三日前植木屋の手ですかされたばかりなので、俄かにカランと八月空が広く現れ、一層明るくまた物珍しい淋しさを瀧子の心に感じさせる。

生徒たちに向って自分もやはり裁縫板をひかえて坐っている瀧子のうしろに床の間があった。濃い鮮かな牡丹色の小町草の花がありふれた白い瀬戸の水盤に活けてある。これも生徒の製作品である。夏の暑さと教室内の静かな活動とはお互いに作用しあって、ふと気がついてみると、いつか頭の中は休みない蝉の声ばかりになっているような気のする時もある。

瀧子は永年の習練で敏捷に指先を運びながら、こうやって嫁入前の娘たちばかりが集って夏期講習をうけているのだけれど、そんなことを思ってもいなかった自分が、もしかしたらこの間の誰よりもさし迫って結婚の前におかれているのかもしれないと思うと妙な心持がした。

「縁を切った昔の女が、あなたを取って食うとでも言うんですか」

話にもならんという風で、ハッハッハと闊達らしく笑いすてた山口仁一の黒い髭の動きが、まざまざと瀧子の眼に浮んだ。